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2008-02-15

理由

 「どうしてそう決心したの?」

 

 「とくに不満は無かったし、

  実は今だって愛おしさは残っているんだけど・・」

 

 「ど・・・?」

 

 「許せない事があったんですよ」

 

 

 彼女は、半年近く付き合った男性と袂を分かつ・・と話していた。

 私は、こんな時、勤めてフラットに話を聞こうと、心がける。

 

 何故なら、

 彼女の付き合ってきた人間は、

 私にとっても知らない仲ではなかったからだ。

 

 

 「私は、煙草が嫌いなんですよ。」

 

 「そうなんだ。」

 

 「あの人は、私と付き合い始める時に

  約束してくれたんです。」

 

 「え?

  煙草やめるって?」

 

 「まさか。

  私と食事する時は、煙草を我慢するって・・・です」

 

 

 よくある話だ。

 

 煙草の匂いは、嫌いな人にとっては暴力にも等しいし、

 煙草愛好者ほどその扱いがぞんざいで、嫌煙者を無視しやすいように

 感じる事が多い。

 

 

 「煙草は私が我慢すればいい・・とも思うんですけど、

  許せないと思ったのは『君と食事をする時は吸わない』と言った人間が、

  付き合いだしてちょっとしてから、食卓にすわった途端に煙草を吸うように

  なった事なんです。」

 

 「え・・・と、計画的に?」

 

 「あはは

  そんな事できる人じゃないですよ。

  本人は、無意識にそれをやってしまうようなんです。」

 

 「そうだな・・・

  あり得るなぁ・・・」

 

 「で『約束したよね?』って言うとすぐ謝るのですが、

  テーブルに灰皿がある店に行くと、同じ事をするんです。

  何回も言うのが嫌で最近は言わなくなりましたが、

  約束した事を守らない事が、どうしてもひかかってしまうんです。」

 

 「いつか、こうやって他の約束も守らないと?」

 

 「えぇ」

 

 

 人間関係は、信頼の上に成り立つもの。

 

 会社というどこかに線を引いた社会の中でも

 信頼を持てない人間は排除される。

 

 ドメスティックな関係は、

 信頼無くして続くわけがない。

 

 

 「俺がヤツの知り合いだから、何かを期待している?」

 

 「いいえ。

  そんな遠回しな手を使えるほど、器用じゃないですよ。」

 

 「どうだかなぁ・・・」

 

 

 バレンタインの翌日に聞かされる話としては、

 いささか重い話だ。

 

  

 「でも、どうして俺に話したの?」

 

 「こういう話をしても、誰にも話さない人だと思ってますから」

 

 「でも、何もしれやれないぜ?」

 

 「いつか、あの人が私との事を話す事があったら、

  その時話してもらえればいいな・・・と思って。」

 

 「何故、上手くいかなかったかって?」

 

 「えぇ」

 

 「あのさ・・・

  ヤツにも話さない事を、俺が知ってたらマズくない?」

 

 「大丈夫です。

  あ・・・迷惑ですか?」

 

 「いや・・

  ただ、ヤツはそんな個人的な事を、俺には言わないだろうよ」

 

 「なんだ、つまらない・・・」

 

 

 え・・・と、

 この場合、どんな反応をすればいいのでしょうか?

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