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2006-03

アードモア

「今日は飲んでもらいたいのが数本あって・・」
 
「いきなり嬉しいですねぇ」
 
「ではまずはコレ」
 
 
と、マスターが出してきたのは、
 
 
アードモア11年(シグナトリー)
 
 
「また、珍しいところからきたねぇ」
 
「若いですけど、結構良いんですよ」
 
「正直言って、過去に1回か2回しか飲んだ事が無いよ」
 
 
そう、このモルトはティーチャーズというブレンデッド用のモルトで
オフィシャルボトルは極めて少ない事と知名度の低さで、
普通のバーに存在する事は殆ど無いと言っても過言ではない。
 
強い味わいと少しまとわりつくような濃さがあって、
スコッチらしい旨味が存在している酒だ。
 
 
「この後にオスロスクとハイランドパーク25年が待っています。」
 
「え?
 ハイランドパーク25年?
 もしかして??」
 
「ネタバレしちゃってるからなぁ・・・
 そうです、あの店で買っちゃいました」
 
「給料出たら買おうと思ってて、ふらっと顔だしたら
 昨日3本あったモノが全部売れちゃっててさぁ」
 
「私が買った時は最後の1本でしたよ」
 
「ま・・・いっか。買ってもここに置いておいて飲んじゃうだけだし(爆)」
 
 
会社の傍の酒屋で見つけた勉強品のハイランドパーク25年は、
界隈の飲食店の注目を浴びていたモルトだった。
 
なんたって箱が無い・・というだけで、信じられない安さだったからだ。
(と言っても、程度問題だけど(^_^;))
 
 
そんな他愛の無い会話を楽しみつつ、久々のアードモアを味わってみる・・・と
 
木のバットで硬球をジャストミートしたような感覚で
スカッとしたパンチが口の中で破裂した。
 
 
「若さ・・だねぇ。
 美味いねぇ~」
 
「いいでしょ。」
 
「やっぱり90年代の酒は、それなりに一本調子だけど
 良い味出してるねぇ」
 
 
モルト全体に言える事として、70年代前半までの酒と90年代以降の酒は
ちゃんと個性があって美味しい・・・という事。
 
変化の幅と奥行きの深さ、そして生き残れただけの素晴らしさを持つ70年代以前のモルトは
そら~美味くてたまらんけど、如何せん高すぎる。
 
対して90年代以降の酒は、最初から最後まで同じ顔を見せる傾向が強いが
綺麗に化粧され、個性もブレず、どんな飲み方にも対応するイージーさがあって、
コレはコレで飲むに値する酒も多いのだ。
 
 
甘さと強めのキックは、長めの余韻の中で艶やかに輝き、
スコッチウィスキーを飲んでいる・・という満足を与えてくれる。
 
その心地よさがまた、次のモルトへの誘いになる・・・事は当然の帰結で、
結局、オスロスクとハイランドパーク25年も飲んでしまう事になった。
 
 
「娑婆の空気はどうですか?」
 
「いいねぇ。
 美味い酒と美味いメシ。
 おまけに素敵な女性もいっぱいで・・・」
 
「早く楽になって、娑婆で遊んでくださいよ」
 
「なかなかシンドイのよ~」
 
 
制作現場にいるようになってから、行きつけの店に顔を出す時間は短くなった。
 
居心地の良い店も様変わりし、貴重な常駐店は数える程。
 
でもまぁ・・・、タイトな時間の中で味わう少しのモルトも、
実は美味しいモノだ、と最近は気付いてきた。
 
数々のモルトを飲んできた経験が、その美味しさをさらに楽しいモノにしてくれるのは、
今日のモルトでもよくわかる。
 
以前飲んだ時は・・・と思い出す時、飲んだ日の事やその頃の自分の環境、
そして感覚などが蘇るのだ。
 
そしてちゃんと、今飲んでるモルトと記憶の照合をしながら、
現在の自分の位置を刻んでいける。
 
 
肩肘張らずに、気持ち良く飲めれば楽しいのが酒ではあるが、
記憶がその楽しさに花を添えるのは紛れもない事実だと、
あらためて感じた夜だった(^_^)

バルヴェニー25年

「ここにある酒ならどれでもテイスティングしていいよ」
 
「本当に?
 かなり高価なモノもあるけど、いいの?」
 
「何の、問題も無し。」
 
「じゃぁ、そのバルヴェニーを」
 
 
ニコッと笑った彼は、惜しげもなくバルヴェニーをテイスティンググラスに注いでくれた。
 
注いだ瞬間から漂う豊かな香りは、普通のバルヴェニーとは明らかに違い、
口に含んだ瞬間からその味わいの深さにやられてしまう。
 
 
「コレ、もちろん有るんだよね?」
 
「あるよ。
 それより他のも、飲まないか?」
 
「じゃあねぇ・・・」
 
 
私はこうして、ロンドンのミルロイズで、
バルヴェニー25年とグレンモレンジ1975・スペシャルエディッション(日本未入荷)を
空港の免税ショップより安い値段で購入した。
 
 
「お探しだったバルヴェニー25年、届いてます。」
 
「手に入ったんだ~」
 
「ちょっと値が張りますが」
 
「あったら取ってって言ったんだから(^_^)」
 
「では、持ってきます。」
 
 
バルヴェニー25年 シングルバレル 46.9%(オフィシャル)
 
バルヴェニーとグレンフィディックが兄弟だ、という事はあまりに有名だが、
同じ仕込み水を使い、同じ形のポットスチルを使って作る2つのモルトは、
何故かそういった事実が信じられないほど違う味わいを持っている。
 
場所の違いは殆ど無く(道を挟んで向かい合わせだ、と聞く)
作り手も同じ会社の人なのに、似て非なるモルトができる事は、ある意味面白い。
 
グレン・フィディックのソレラリザーブと、バルヴェニー15年を比べてみると、
その違い(と言うか、方向性の違い)がわかると思う。
 
フィディックの素直さとは違う方向の、純真な味わいがバルヴェニーにはあって、
その奥行きの広さはバルヴェニーの方が一歩上を行くのだ。
 
そのためよく言われるのが「バルヴェニーはフィディックの吟醸酒」という表現だが、
私にしてみれば、フィディックの方が吟醸のような可憐さがあり、
バルヴェニーの方は本醸造のような強さを感じていたりする。
 
ただ値段は、バルヴェニーの方が遙かに高く、
その数はフィディックとは比べ物にならないほど少ないはずだ。
 
希少性という事から吟醸酒という表現が生まれたのだと思うが、
とにかくフィディック好きの人には間違いなくオススメのモルトだと言っていい。
 
 
「どうします?」
 
「もちろん、開けて。」
 
「いきなり飲みます?」
 
「うん、貴重な70年代モルトだけど、
 飲まないで飾っておく物じゃない。」
 
 
ミルロイズで買ってきた25年は、ロブロイで飲んでしまい、
その後の入荷を待ったのだが、もともと数がある物じゃなかったため入手できていなかった。
 
まぁ、ロンドンで買った時(3年前)で3万円程度した酒だ。
日本で買っても良い価格である事は間違いないし、
正規で買えばサントリー・アライドの事だからかなりの価格になる事は想像できる。
 
で、安く売ってたら、買おう・・とあまり気にしていなかったのだが、
最近、この25年が終売という話が流れると同時に、店にも若干並ぶようになっていたのだ。
 
安売りの店でも2万オーバーの酒だから数は置いてない。
ボトリングがいつになるかによってだが、オフィシャルが出す25年物と言えば、
70年代~80年代前半の貴重な物である事は疑う余地も無い。
 
で、オーダーしたモルトのボトリング・デイトはなんと2000年。
蒸留年は1974年の代物だった。
 
 
コルク栓にかなり近い部分まで詰められたバルヴェニーを
テイスティンググラスに注いでもらう。
 
トクトクトク・・・と音がして、ちょっと勢いのついたバルヴェニーがグラスに落ちると、
その瞬間から香りが立ち上る。
 
注いだ瞬間からかなりのポテンシャルを発揮できる酒だと記憶していたから、
間髪入れずに5回ほどグラスの中でモルトを回してから、少しだけ口に含んでみた。
 
 
うわ・・・・
 
 
 
声を失った(^_^;)
 
 
口の中に広がるのは、独特な豊かなバニラ香。
 
起きたての尖ったアルコール臭はあっても、
それをマスクするほどの甘さ。
 
その後にどーんと襲ってくる余韻の深く、長い事。
 
 
「・・・・こんなに、美味かったっけ・・・」
 
「まだ、開けたばかりですけど、良いですか?」
 
「飲んでみなよ」
 
 
珍しいボトルが入ると、バーテンダーには必ず飲ませるようにしている。
 
最初の頃は、いわゆるススメ好きな酔っ払いの戯れ事と思っていた彼らも、
最近は、あまりにレアな物ばかり揃った関係で、それを楽しみにしていたりする(^_^;)
 
本来カウンターの中では飲まない(そういうルールがある店)彼も、
テイスティンググラスに注いだモルトをしゃがんで一口飲んだ。
 
 
「すごい・・・ですね。
 甘さ・・と、バニラ香・・・」
 
「前に飲んだ時より、鮮烈に感じるよ」
 
「開けたばかりですよ?
 これは驚きました。」
 
「俺もだ(^_^;)」
 
 
正直に言います。
 
今、販売しているバルヴェニー25年を見つけたら、
間違いなく「買い」です。
 
シングルバレルの15年も勿論美味しくてレアなモルトですが、
その差は大きすぎて同じ名前をつけてはいけない・・と思うほどです。
 
 
さぁ・・てと、
あるウチに買っておこう・・・かな(/–)/

まだあった

「あの・・・アドベッグ1975なんですけど、まだ入りますが」
 
「え? マジ??」
 
「えぇ、国分が在庫を放出したみたいで。」
 
「じゃ、取る。
 ついでにあったら1977も取って。」
 
「解りました」
 
「それと、いつもの調査なんだけど、
 ピアレスコレクションのマッカラン1968とバルベニー25年も・・・」
 
「え?
 オフィシャル・・ですか?」
 
「もちろん」
 
 
どうも私は、オフィシャルボトルを頼まない人として認識されているらしい(爆)
 
毎度の事ながら、こうやってストックを増やしていくのだが、
これ以上置いても熟成しない・・と見切った60~80年代モルトが多くリリースされ、
今はとにかく「あったら買う」状態になっている。
 
ロセスの30年物や、マッカランの60年代物は、既に枯れてきた傾向すらあるが、
それでも今の物に比べたら味わいは比べ物にならないほどの凄い状態だ。
 
昨日も酒屋で狙っていたハイランドパーク25年を誰かに買い占められて涙目になっていたが、
そこでまたもやヤバイ酒を見つけて狼狽えていたりする。
 
ポートエレン27年(ダグラスレイン)で、
ドイツで行われたイベントでしか出さないレア物故、
プレミアムがついて3万オーバーの代物。
 
美味いアイラが急速に減りだした結果、エレンの27年となれば押さえない手はないのだが、
3万以上出すとなるとアドベッグのロード・オブ・ジ・アイルやバルベニー25年を先に押さえたい。
 
忙しいとモルトを飲むチャンスが減るばかりで、
ストックも貯まる一方・・・と、悩ましく・・・(^_^;)
 
 
まぁ、アドベッグ1975は確実にもう1本来る事がわかったので、
当分アイラは、アドベッグ一本槍・・・になるだろうね(/–)/

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