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2006-03-25

アードモア

「今日は飲んでもらいたいのが数本あって・・」
 
「いきなり嬉しいですねぇ」
 
「ではまずはコレ」
 
 
と、マスターが出してきたのは、
 
 
アードモア11年(シグナトリー)
 
 
「また、珍しいところからきたねぇ」
 
「若いですけど、結構良いんですよ」
 
「正直言って、過去に1回か2回しか飲んだ事が無いよ」
 
 
そう、このモルトはティーチャーズというブレンデッド用のモルトで
オフィシャルボトルは極めて少ない事と知名度の低さで、
普通のバーに存在する事は殆ど無いと言っても過言ではない。
 
強い味わいと少しまとわりつくような濃さがあって、
スコッチらしい旨味が存在している酒だ。
 
 
「この後にオスロスクとハイランドパーク25年が待っています。」
 
「え?
 ハイランドパーク25年?
 もしかして??」
 
「ネタバレしちゃってるからなぁ・・・
 そうです、あの店で買っちゃいました」
 
「給料出たら買おうと思ってて、ふらっと顔だしたら
 昨日3本あったモノが全部売れちゃっててさぁ」
 
「私が買った時は最後の1本でしたよ」
 
「ま・・・いっか。買ってもここに置いておいて飲んじゃうだけだし(爆)」
 
 
会社の傍の酒屋で見つけた勉強品のハイランドパーク25年は、
界隈の飲食店の注目を浴びていたモルトだった。
 
なんたって箱が無い・・というだけで、信じられない安さだったからだ。
(と言っても、程度問題だけど(^_^;))
 
 
そんな他愛の無い会話を楽しみつつ、久々のアードモアを味わってみる・・・と
 
木のバットで硬球をジャストミートしたような感覚で
スカッとしたパンチが口の中で破裂した。
 
 
「若さ・・だねぇ。
 美味いねぇ~」
 
「いいでしょ。」
 
「やっぱり90年代の酒は、それなりに一本調子だけど
 良い味出してるねぇ」
 
 
モルト全体に言える事として、70年代前半までの酒と90年代以降の酒は
ちゃんと個性があって美味しい・・・という事。
 
変化の幅と奥行きの深さ、そして生き残れただけの素晴らしさを持つ70年代以前のモルトは
そら~美味くてたまらんけど、如何せん高すぎる。
 
対して90年代以降の酒は、最初から最後まで同じ顔を見せる傾向が強いが
綺麗に化粧され、個性もブレず、どんな飲み方にも対応するイージーさがあって、
コレはコレで飲むに値する酒も多いのだ。
 
 
甘さと強めのキックは、長めの余韻の中で艶やかに輝き、
スコッチウィスキーを飲んでいる・・という満足を与えてくれる。
 
その心地よさがまた、次のモルトへの誘いになる・・・事は当然の帰結で、
結局、オスロスクとハイランドパーク25年も飲んでしまう事になった。
 
 
「娑婆の空気はどうですか?」
 
「いいねぇ。
 美味い酒と美味いメシ。
 おまけに素敵な女性もいっぱいで・・・」
 
「早く楽になって、娑婆で遊んでくださいよ」
 
「なかなかシンドイのよ~」
 
 
制作現場にいるようになってから、行きつけの店に顔を出す時間は短くなった。
 
居心地の良い店も様変わりし、貴重な常駐店は数える程。
 
でもまぁ・・・、タイトな時間の中で味わう少しのモルトも、
実は美味しいモノだ、と最近は気付いてきた。
 
数々のモルトを飲んできた経験が、その美味しさをさらに楽しいモノにしてくれるのは、
今日のモルトでもよくわかる。
 
以前飲んだ時は・・・と思い出す時、飲んだ日の事やその頃の自分の環境、
そして感覚などが蘇るのだ。
 
そしてちゃんと、今飲んでるモルトと記憶の照合をしながら、
現在の自分の位置を刻んでいける。
 
 
肩肘張らずに、気持ち良く飲めれば楽しいのが酒ではあるが、
記憶がその楽しさに花を添えるのは紛れもない事実だと、
あらためて感じた夜だった(^_^)

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