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2005-06

ブレイズ・オブ・グレンリベット・その後

変わる事はわかっていたけど、
おそろしく変化していく酒だ・・という事を思い知る。
 
最初に感じた、スコッチらしいテイストはすっかり無くなり、
上質なモルトに共通するちょっと粘度を感じさせる舌触りと、
樽香の気持ちよさが膨らんでいて・・・・
 
こういったマイナーなモルトは、80年代でも素晴らしいのか・・・と
ちょっとだけ嬉しくなっている。
 
最近は、オールドモルトとニューモルトを違う飲み物として認識するようになったが、
その中間を埋める存在として、少数でもこういった酒があると思うと、
敢えて80年代モルトの調査をする事も、また楽しいのかも知れない。
 
だが・・・・
最近は蒸留年を明記せず、なんだか素性の解らない酒が
随分増えてしまったように見えるのだが・・・(/–)/

ラフロイグ・クォーターカスク

「モルトはありますか?」
 
「どんな物がよろしいでしょう?
 あっさりとした物か、柔らかい物、
 逆にどっしりとした物か・・・」
 
「70年代か90年代のモルトは?」
 
 
バーテンダーの客の好みを探る会話を遮るように答えると、
彼の顔色が変わった。
 
 
バックバーには、この店がカクテル重視の店だ・・と語るだけの
上質で幅広い酒瓶が綺麗に並んでいたが、モルトはあまり目につかない量しかストックされてない。
 
つまり、相当にこだわった店が揃える数少ないモルトが何なのか、
それが知りたい気分でいっぱいにさせられていたわけだ。
 
こんな店で、「とっておきのを出せ」と言うのは、
当たり前過ぎて面白くない。
 
アイラだとか、スペイサイドとか指定するのは、もっとダメだ。
 
だから敢えて「70年代か90年代」というフィルターを与えてみた。
 
 
表情が引き締まったバーテンダーはちょっと考えた後、
3本のモルトを持ってきた。
 
ゴードン&マクファイルの
「アドベッグ スピリット・オブ・スコットランド」
 
マーレー・マクダヴィットの
「スプリングバンク ファウンダーズ・リザーブ」
 
そして・・・
「ラフロイグ・クォーターカスク」
 
が目の前に並んだ。
 
 
「こちらのアドベッグはシェリー樽を使って熟成された・・・」
 
「ラフロイグをもらうよ」
 
「え?」
 
「クォーターカスクはまだ飲んだ事が無いんだ」
 
「わかりました。
 こちらは人気がありまして、よく出ますが、
 普通の10年に比べると穏やかです。
 よろしいですか?」
 
「スプリングバンクも好きだけど、まずは飲んだ事ないヤツがいいな」
 
 
免税店専用品とか、ファンクラブ向け1000本限定品とか、
色々なアナウンスが聞こえているが、現物を見る事がなく飲むチャンスがなかったラフロイグ。
 
小さい樽を使う事で樽材の影響を強く出す試みは、
どんなテイストをラフロイグに与えたのか、気になっていたのだ。
 
 
「飲み方は、どういたしますか?」
 
「ストレートで。
 テイスティンググラスが有れば。」
 
「わかりました」
 
 
3本選んだモルトのうち2本がアイラというのが面白い。
 
この店には凄いハイランドやスペイサイドが無い・・という証明なのか、
銘柄ではなく蒸留年を指定する馬鹿はまずアイラ好きだろ・・という決めつけか。
 
どっちにしても、いきなり投げたフォークボールを、
どうにかバットに当てられた気分がして面白い。
 
 
一口舐めてみて驚いた。
 
15年物にも似たスムースさと、10年物に近いスモーキーさ、
そして広がっていく豊かな香りに控えめな甘さのハーモニーが面白い。
 
モレンジのアーティザンカスクもそうだったが、良質なオーク樽がもたらす
優しい甘さと豊かな表情が、このラフロイグにも感じられる。
 
・・という事は、小さい樽を使った効果は、充分あったと言っていい。
 
ただ残念な事に、時間をかけても化けていくような酒ではないようで、
しばし様子を見てもその幅は狭かった。
 
 
「いつもはどのようなモルトを飲まれるのですか?」
 
「節操なく何でも飲んじゃうんだ」
 
「最近出たマッカランのファインオークは飲みましたか?」
 
「飲んだ。
 2度と飲まない」
 
「昔のに比べると、随分変わりましたよね」
 
「マッカランなら今、キングスバリーで76年のカスクが出てるよ」
 
「誕生年が76年なんでストックしようか・・と悩んでいるんですが、
 飲みましたか?」
 
「もちろん」
 
「どうでしたか?」
 
「76年のオフィシャル18年物によく似てるよ」
 
「そうですか・・・
 やっぱり買おうかな。
 実はマッカランのコレクションしてて、70年から80年までの
 18年物を全部持ってるんですよ」
 
「78・79はプレミアムがついてるうちに売っちゃった方がいいよ」
 
「だめですか?」
 
 
こういう話になるともう、お互いの腹のさぐり合いは無い。
 
明らかにモルト馬鹿である事が知れてしまえば、後は酒場の与太話が面白く、
そこでは、モルト情報が眉唾物も含めて飛び交うばかりだ。
 
 
「バーボンは飲みませんか?」
 
「昔のイバンとか有れば考えるけど、あったとしても凄い値段だよね」
 
「そうですね。
 でも、こんな物があるんですが」
 
 
そういってバーテンダーが出してくれたのは、
ケイデンヘッズ社製の「フランクフォート」だった。
 
 
「珍しいねぇ」
 
「本当はヘブンヒルを出したかったんですが、
 凄い人気であっという間に売れちゃいまして」
 
「ケイデンヘッズが出してるバーボンって飲んで見たかったんだよ」
 
 
さすがはプロ。
モルトのボトラー繋がりで、凄い変化球を持ってきたものだ。
 
どうやら今度は、こっちが打つ番って事らしい(^_^;)
 
 
しかも・・・・
 
ケイデンヘッズ社製バーボン「フランクフォート」は、
恐ろしいほど表情豊かで美味い酒だった。

化ける

以前紹介した「バリンダロッホ」を久々にじっくり飲んでみたら・・・
思いっきり化けていた。
 
ファークラスらしい強いボディが消え去って、
上質なモルトに共通する少しオイリーな感触と味わいが、
豊にどんどん広がっていく。
 
1967年蒸留のモルトだから当たり前・・・と言ってしまえばそれまでだが、
現在のファークラスに比べてあまりに豊で幅広い味わいは、
モルトの美味しさをギュッと凝縮したようでただただ感激するしかない。
 
少し酸味があるパウンドケーキの、外側のちょっと焦げた感じのような甘さ。
フィノシェリーの影を感じる風味と樽香が、ウィスキーらしい味わいを凌駕する。
 
口開けの時、テイスティングしたバーテンダーが飲んでみて一言。
 
 
「別物になりましたね」
 
 
こんな変化があるからモルトは楽しいし、
これこそがモルトを楽しむ醍醐味だと思っている。
 
最初から最後まで味の変わらない酒造りもまた大変なのだろうけど、
決まった味が素晴らしくなければ意味が無いし、
変化する中で見えてくる世界が楽しい事は世界中の酒馬鹿が知っているはずだから・・・・
 
やっぱりこんなモルトじゃないと、
飲む気持ちが薄くなってしまう・・・・のさ(^_^;)
 
馬鹿は飲んだらさらに馬鹿・・・とくらぁ(/–)/

ピティヴェアック

キングスバリーのケルティックコレクションの素晴らしさは何度も書いているが、
最近リリースされた物はどれも素晴らしくて目移りがする(^_^;)
 
東屋で振る舞った「グレンリベット1977」はリベットらしさをしっかり持ちつつ
今のリベットにはあまり感じない奥行きと香りを振りまく素晴らしい酒だった。
 
贅沢を言うなら、もう少し向かしのリベットが持っていた花畑のような香りを
持っていて欲しかったが、それは贅沢言い過ぎ・・・と言うべきか(^_^;)
 
実はあの日持っていく酒を選ぶ時、最後まで迷った酒がもう一本あった。
 
 
「ピティヴェアック1974」26年 55.8%
 
 
ピティヴイクと発音する人も多く、かく言う私もバイクと発音してしまうが、
「ベル」の原酒でもあるコイツは、スペイサイドの中では穏やかな酒に分類される逸品。
 
しかし、その知名度はあまりに低く、発音しにくい名前でもあるから、
イベントで飲ませる酒としては向かない、と判断してしまった。
 
 
「ピティヴイク、入りましたよ」
 
「え?」
 
「酒屋のケルティック全部試飲してみたら、
 一番美味かったんですよ」
 
「なにぃ?
 全部試飲した・・だとぉ?」
 
「酔っ払っちまいましたけどね」
 
「そりゃそうだ。
 全部、カスクだよ・・・(^_^;)」
 
「飲みます?」
 
「もちろん。
 聞くまでもないでしょ?」
 
 
「ダフタウン」というモルトをご存じだと、
「ピティヴェアック」誕生の話は面白くなる。
 
「グレンフィディック」に対する「ヴァルベニー」や、
「スプリングバンク」に対する「ロングロウ」のように
「ピティヴェアック」は「ダフタウン」と兄弟の間柄になるのだ。
 
「ピティヴェアック」は「ダフタウン」を拡張するために作られた蒸留所で、
ポットスチルはレプリカで設備も熟成庫もほとんど共通であったのだが、
出来上がった酒は「ダフタウン」とは違う酒になっていた。
 
道一本隔てた場所で同じような施設で同じスタッフが作っても、
こういった事が起きるのが酒の面白いところ。
 
この兄弟もまた同じ道を歩いたのだが、柔らかさで言ったら
「ダフタウン」の方が上だと、私自身は感じている。
 
この蒸留所は2002年を最後に取り壊されたと記憶しているから、
実は二度と飲めない貴重なモルトと言っていい。
 
 
「うめぇ・・・・」
 
「でしょ?」
 
「なんて言うか、濃いって言うか・・・」
 
「ボディ、ありますよね?」
 
 
濃い色がついた「ピティヴェアック」は、
下手なモルトは全力疾走で逃げ出すほど、美味かった。
 
濃厚な味わいなのにしつこくなく、アルコール度数を感じさせない柔らかさに加えて、
エステルと樽香の合唱が実に楽しい酒なのだ。
 
 
「これ、無くなる前に買いに行こう」
 
「正解でしょ?」
 
「恐れ入ったって感じだよ」
 
「1974って数字に惹かれちゃったんですよ」
 
「なんかそこら辺の年代って、
 酒造りが大幅に変わっていく時代のような気がするよね」
 
 
グレンリベットと付ければ、どんな酒でも売れた・・という時代があってから、
マッカランという名前が付いていれば売れてしまう時代を経て、
蒸留年度を見て酒を判断する時代の到来がやったきた?のかわからないが、
今の私は間違いなく蒸留年度とボトラーズ名で酒を判断していたりする。
 
とにかく今は、60~70年代のモルトが「買い」らしく、
色々なメーカーからブランドだけは凄い酒がリリースされるようになってきた。
 
あるうちに買わなくちゃ・・・とは思っているけど、
そうそうポンポンと買えないから、悩みは尽きないんだけどねぇ・・(/–)/

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