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2005-06-10

ラフロイグ・クォーターカスク

「モルトはありますか?」
 
「どんな物がよろしいでしょう?
 あっさりとした物か、柔らかい物、
 逆にどっしりとした物か・・・」
 
「70年代か90年代のモルトは?」
 
 
バーテンダーの客の好みを探る会話を遮るように答えると、
彼の顔色が変わった。
 
 
バックバーには、この店がカクテル重視の店だ・・と語るだけの
上質で幅広い酒瓶が綺麗に並んでいたが、モルトはあまり目につかない量しかストックされてない。
 
つまり、相当にこだわった店が揃える数少ないモルトが何なのか、
それが知りたい気分でいっぱいにさせられていたわけだ。
 
こんな店で、「とっておきのを出せ」と言うのは、
当たり前過ぎて面白くない。
 
アイラだとか、スペイサイドとか指定するのは、もっとダメだ。
 
だから敢えて「70年代か90年代」というフィルターを与えてみた。
 
 
表情が引き締まったバーテンダーはちょっと考えた後、
3本のモルトを持ってきた。
 
ゴードン&マクファイルの
「アドベッグ スピリット・オブ・スコットランド」
 
マーレー・マクダヴィットの
「スプリングバンク ファウンダーズ・リザーブ」
 
そして・・・
「ラフロイグ・クォーターカスク」
 
が目の前に並んだ。
 
 
「こちらのアドベッグはシェリー樽を使って熟成された・・・」
 
「ラフロイグをもらうよ」
 
「え?」
 
「クォーターカスクはまだ飲んだ事が無いんだ」
 
「わかりました。
 こちらは人気がありまして、よく出ますが、
 普通の10年に比べると穏やかです。
 よろしいですか?」
 
「スプリングバンクも好きだけど、まずは飲んだ事ないヤツがいいな」
 
 
免税店専用品とか、ファンクラブ向け1000本限定品とか、
色々なアナウンスが聞こえているが、現物を見る事がなく飲むチャンスがなかったラフロイグ。
 
小さい樽を使う事で樽材の影響を強く出す試みは、
どんなテイストをラフロイグに与えたのか、気になっていたのだ。
 
 
「飲み方は、どういたしますか?」
 
「ストレートで。
 テイスティンググラスが有れば。」
 
「わかりました」
 
 
3本選んだモルトのうち2本がアイラというのが面白い。
 
この店には凄いハイランドやスペイサイドが無い・・という証明なのか、
銘柄ではなく蒸留年を指定する馬鹿はまずアイラ好きだろ・・という決めつけか。
 
どっちにしても、いきなり投げたフォークボールを、
どうにかバットに当てられた気分がして面白い。
 
 
一口舐めてみて驚いた。
 
15年物にも似たスムースさと、10年物に近いスモーキーさ、
そして広がっていく豊かな香りに控えめな甘さのハーモニーが面白い。
 
モレンジのアーティザンカスクもそうだったが、良質なオーク樽がもたらす
優しい甘さと豊かな表情が、このラフロイグにも感じられる。
 
・・という事は、小さい樽を使った効果は、充分あったと言っていい。
 
ただ残念な事に、時間をかけても化けていくような酒ではないようで、
しばし様子を見てもその幅は狭かった。
 
 
「いつもはどのようなモルトを飲まれるのですか?」
 
「節操なく何でも飲んじゃうんだ」
 
「最近出たマッカランのファインオークは飲みましたか?」
 
「飲んだ。
 2度と飲まない」
 
「昔のに比べると、随分変わりましたよね」
 
「マッカランなら今、キングスバリーで76年のカスクが出てるよ」
 
「誕生年が76年なんでストックしようか・・と悩んでいるんですが、
 飲みましたか?」
 
「もちろん」
 
「どうでしたか?」
 
「76年のオフィシャル18年物によく似てるよ」
 
「そうですか・・・
 やっぱり買おうかな。
 実はマッカランのコレクションしてて、70年から80年までの
 18年物を全部持ってるんですよ」
 
「78・79はプレミアムがついてるうちに売っちゃった方がいいよ」
 
「だめですか?」
 
 
こういう話になるともう、お互いの腹のさぐり合いは無い。
 
明らかにモルト馬鹿である事が知れてしまえば、後は酒場の与太話が面白く、
そこでは、モルト情報が眉唾物も含めて飛び交うばかりだ。
 
 
「バーボンは飲みませんか?」
 
「昔のイバンとか有れば考えるけど、あったとしても凄い値段だよね」
 
「そうですね。
 でも、こんな物があるんですが」
 
 
そういってバーテンダーが出してくれたのは、
ケイデンヘッズ社製の「フランクフォート」だった。
 
 
「珍しいねぇ」
 
「本当はヘブンヒルを出したかったんですが、
 凄い人気であっという間に売れちゃいまして」
 
「ケイデンヘッズが出してるバーボンって飲んで見たかったんだよ」
 
 
さすがはプロ。
モルトのボトラー繋がりで、凄い変化球を持ってきたものだ。
 
どうやら今度は、こっちが打つ番って事らしい(^_^;)
 
 
しかも・・・・
 
ケイデンヘッズ社製バーボン「フランクフォート」は、
恐ろしいほど表情豊かで美味い酒だった。

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