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2010-11-04

ステーキハウス ジャックス


 
 
どんなに大切にしていても
壊れてしまったり、無くなってしまうものはある。
 
しかしそれは、どんなに忘れようと思っても
忘れられない記憶として、心の中で変わらずにあり続けられる可能性も
持っている。
 
そんな事を意識するようになったのは、
あまりに多くの物を失い続け、
その記憶の意味を考える事もまた、多くなってきたからなのだろう。
 
そしてまた、大切な物が失われつつある現実を前に、
時の流れの力に、ただただ畏怖するしかない己の無力さを、感じている。
 
 

 
肉食系の私にとって、
敢えて「ビフテキ」と称して食べたいステーキがある。
 
それがジャックスの「ニューヨークカット・サーロインステーキ」だ。
 
 
もう、何度もこのページで紹介してきたが、
訪れる度に、新たな美味さを感じさせられて、
また、このビフテキを食べに来よう・・・と思わされてしまう。
 
そんなジャックスが、店舗があるビルの取り壊しによって、
その長きにわたった歴史の幕を閉じる・・と言うのだ。
 
 
 
「ちょうどね、良い時期だと思うんですよ。」
 
「失礼ですが、お幾つになられたのですか?」
 
「84才になりました。
 さすがにお客様が多くいらっしゃると、厳しくなりました。」
 
 
 
ジャックは、どう見ても80代には見えない風貌で、
中華街で頑張っていた頃から何も変わっていないように見える。
 
勿論、80代である事は知っていたけど、
その元気な姿を見ていると、彼の引退を想像する事はできなかったのだ。
 
しかし無情にも時は、
全ての物に始まりを与え、そして終わりを告げるのだ。
  
 
 
「今日は・・・アレでいいですよね?」
 
「はい、勿論、アレを食べに来ました。」
 
 
 
アレとは、ニューヨークカットステーキの事。

一度勧められて食べて以来、
この店で他の物を頼んだ記憶がない(^_^;
 
そしてジャックも私の顔を見れば、
その準備に入りつつ、敢えて確認をするのが決まりになっていた。
 
 

 

 
 
芝エビのカクテルとサラダ、ライス。
そして、ニューヨークカット・サーロインステーキ。
 
そのセットは、私にとっての「ビフテキ」のスタンダードになっているが、
自分に気合いを入れる時や、振り返らなくてはいけない思いが大きくなった時など、
ここぞ・・・という時に、自分の位置を確認する意味も含めて食べる物として、
とても大切な「ソウルフード」として、大事にしているのだ。
 
 
 
「顔見たらね、良かったって思ったんですよ。」
 
「え?」
 
「常連客用に切っておいた、ちょっと大きめな肉がね。
 熟成が進んでて食べ頃だったのね。
 やっぱりこの肉は、このニューヨークカットが好きな人に食べてもらいたくてね。」
 
「呼ばれたんですね」
 
「400グラムあります」
 
 
 
嘘だ・・・
1ポンド(450グラム)はあるでしょ?
 
グリルにジャックが乗せた肉は、
凄く大きく見えたのだ。
 
昔からジャックスのステーキは公称値より大きいように感じていて、
スモールサーロイン(150グラム)でさえ、200グラム近くに見える事がある。
 
で、本人が400グラムって言うならねぇ・・・・(^_^;
 
 

 
 
何だろう・・・
この美味さ。
 
美味しい物って一気に食べたくなるものだけど、
ここのステーキは、まさにそういう魅力に溢れていて、
ガツガツと勢いに任せて食べたくなってしまうのだ。
 
 
 
「本当はね・・・
 全てのお客様にニューヨークカットを食べてもらいたいんです。」
 
 
以前ジャックは、私にそう言った。
 
 
商売だから価格設定も巧みに行って
リーズナブルな物もメニューに載っている。
 
しかし肉質はコストに応じた物にならざるを得なく、
彼の技術を持ってしても同じ味わいにはならないのだろう。

私も、本当に味わって欲しい彼のステーキの味は
ニューヨークカットでしか表現できないと、思っている。
 
そしてその話を聞いて以来、
私はニューヨークカットステーキしか食べていないし、
その味こそがジャックスのステーキの味として、
記憶の中に刻み込まれている。
 
 

 
 
「いつまで、営業されるんですか?」
 
「来年の3月・・・頃までです。」
 
「寂しくなります。」
 
「できるだけ多くの皆さんに、
 このステーキを味わって欲しいですね」
 
 
今まで、ジャックスのステーキより美味しい
と感じたステーキは、幾つもある。
 
でも、ジャックスのステーキに換われるステーキには
出会えた事が無い。
 
炭火のグリルで焼く、
落ちた脂で少し燻されたフレーバーと、
加熱されて味わいを増した脂と、
何よりも肉の持つ味を深めた味わいが
絶妙にバランスされたステーキ。
 
一人で食べきるのには辛いサイズだと感じる年齢の自分でも、
1つのステーキを2人でシェアするセットにしてもらえば、
コストも決して高いとは思えない。
 
 

 
 
昭和の時代に、
御馳走中の御馳走と言われたビフテキを、
ただひたすら焼き続けてきたからこそできたその技を、
味わう事ができるのは、もうそう長くない。
 
あと何回、食べる事ができるだろうか・・・
と思いながらの帰路だったが、
昭和の匂いを記憶に焼き付ける為にも
また足を運ぼうと思った。
 
 

jack’s restaurant
045-621-4379
横浜市中区本牧間門43-14
17:00~22:30
月曜定休(祝日の場合は翌日)

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