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ステーキハウス ジャックス


 
 
どんなに大切にしていても
壊れてしまったり、無くなってしまうものはある。
 
しかしそれは、どんなに忘れようと思っても
忘れられない記憶として、心の中で変わらずにあり続けられる可能性も
持っている。
 
そんな事を意識するようになったのは、
あまりに多くの物を失い続け、
その記憶の意味を考える事もまた、多くなってきたからなのだろう。
 
そしてまた、大切な物が失われつつある現実を前に、
時の流れの力に、ただただ畏怖するしかない己の無力さを、感じている。
 
 

 
肉食系の私にとって、
敢えて「ビフテキ」と称して食べたいステーキがある。
 
それがジャックスの「ニューヨークカット・サーロインステーキ」だ。
 
 
もう、何度もこのページで紹介してきたが、
訪れる度に、新たな美味さを感じさせられて、
また、このビフテキを食べに来よう・・・と思わされてしまう。
 
そんなジャックスが、店舗があるビルの取り壊しによって、
その長きにわたった歴史の幕を閉じる・・と言うのだ。
 
 
 
「ちょうどね、良い時期だと思うんですよ。」
 
「失礼ですが、お幾つになられたのですか?」
 
「84才になりました。
 さすがにお客様が多くいらっしゃると、厳しくなりました。」
 
 
 
ジャックは、どう見ても80代には見えない風貌で、
中華街で頑張っていた頃から何も変わっていないように見える。
 
勿論、80代である事は知っていたけど、
その元気な姿を見ていると、彼の引退を想像する事はできなかったのだ。
 
しかし無情にも時は、
全ての物に始まりを与え、そして終わりを告げるのだ。
  
 
 
「今日は・・・アレでいいですよね?」
 
「はい、勿論、アレを食べに来ました。」
 
 
 
アレとは、ニューヨークカットステーキの事。

一度勧められて食べて以来、
この店で他の物を頼んだ記憶がない(^_^;
 
そしてジャックも私の顔を見れば、
その準備に入りつつ、敢えて確認をするのが決まりになっていた。
 
 

 

 
 
芝エビのカクテルとサラダ、ライス。
そして、ニューヨークカット・サーロインステーキ。
 
そのセットは、私にとっての「ビフテキ」のスタンダードになっているが、
自分に気合いを入れる時や、振り返らなくてはいけない思いが大きくなった時など、
ここぞ・・・という時に、自分の位置を確認する意味も含めて食べる物として、
とても大切な「ソウルフード」として、大事にしているのだ。
 
 
 
「顔見たらね、良かったって思ったんですよ。」
 
「え?」
 
「常連客用に切っておいた、ちょっと大きめな肉がね。
 熟成が進んでて食べ頃だったのね。
 やっぱりこの肉は、このニューヨークカットが好きな人に食べてもらいたくてね。」
 
「呼ばれたんですね」
 
「400グラムあります」
 
 
 
嘘だ・・・
1ポンド(450グラム)はあるでしょ?
 
グリルにジャックが乗せた肉は、
凄く大きく見えたのだ。
 
昔からジャックスのステーキは公称値より大きいように感じていて、
スモールサーロイン(150グラム)でさえ、200グラム近くに見える事がある。
 
で、本人が400グラムって言うならねぇ・・・・(^_^;
 
 

 
 
何だろう・・・
この美味さ。
 
美味しい物って一気に食べたくなるものだけど、
ここのステーキは、まさにそういう魅力に溢れていて、
ガツガツと勢いに任せて食べたくなってしまうのだ。
 
 
 
「本当はね・・・
 全てのお客様にニューヨークカットを食べてもらいたいんです。」
 
 
以前ジャックは、私にそう言った。
 
 
商売だから価格設定も巧みに行って
リーズナブルな物もメニューに載っている。
 
しかし肉質はコストに応じた物にならざるを得なく、
彼の技術を持ってしても同じ味わいにはならないのだろう。

私も、本当に味わって欲しい彼のステーキの味は
ニューヨークカットでしか表現できないと、思っている。
 
そしてその話を聞いて以来、
私はニューヨークカットステーキしか食べていないし、
その味こそがジャックスのステーキの味として、
記憶の中に刻み込まれている。
 
 

 
 
「いつまで、営業されるんですか?」
 
「来年の3月・・・頃までです。」
 
「寂しくなります。」
 
「できるだけ多くの皆さんに、
 このステーキを味わって欲しいですね」
 
 
今まで、ジャックスのステーキより美味しい
と感じたステーキは、幾つもある。
 
でも、ジャックスのステーキに換われるステーキには
出会えた事が無い。
 
炭火のグリルで焼く、
落ちた脂で少し燻されたフレーバーと、
加熱されて味わいを増した脂と、
何よりも肉の持つ味を深めた味わいが
絶妙にバランスされたステーキ。
 
一人で食べきるのには辛いサイズだと感じる年齢の自分でも、
1つのステーキを2人でシェアするセットにしてもらえば、
コストも決して高いとは思えない。
 
 

 
 
昭和の時代に、
御馳走中の御馳走と言われたビフテキを、
ただひたすら焼き続けてきたからこそできたその技を、
味わう事ができるのは、もうそう長くない。
 
あと何回、食べる事ができるだろうか・・・
と思いながらの帰路だったが、
昭和の匂いを記憶に焼き付ける為にも
また足を運ぼうと思った。
 
 

jack’s restaurant
045-621-4379
横浜市中区本牧間門43-14
17:00~22:30
月曜定休(祝日の場合は翌日)

コメント:13

PORFIDIO 10-11-04 (木) 21:50

いつも記事を見るたびに、いつかは食べに行かなきゃイケナイものだと思っていました。
悲しいかな、その残された時間もあと僅かなのですね。。。

来月、ボーナスが出たあと、ニューヨークカットを喰らいに行くことに決めました!(^^)

bowjack 10-11-04 (木) 22:27

肉食系の私としては、
ここのステーキが無くなるのは、あまりに悲しい。
 
でも、昭和の風はまだ、
ここには健在です。
 
石原慎太郎・裕次郎兄弟が愛した
古き良き時代の味わいを是非味わってください。

そしてその味が、
今の社会を築き上げてきた人達の憧れでもあった事を、
自分の体験として持つのは、今を計る上でも有意義です(^_^)
 
あぁ・・・
思い出すと、また食べたくなる(爆)

食べられるウチに、また行かなくちゃ(^_^;

MEG 10-11-04 (木) 23:27

夫婦して、ショックを受けました。
いつかまた、今度は子供も一緒に・・・なんて思っていましたが。
そうですよねぇ。もう84歳ですか・・・。
家庭を持ってからは、なかなか行く機会も無く・・・。
食べられなくなるなんて・・・これは絶対に行かねば。
あ、考えるだけでヨダレがでちゃいます。(^^;

bowjack 10-11-05 (金) 13:42

私も、聞いた時はショックでした。
 
是非皆さんで(^_^)>MEG

furu_gogo 10-11-05 (金) 23:59

私も某若さんの日記でジャックスの事を知り、2度程ですが食べに行きました。
ちょうど妻が第一子を身ごもっていて、元気な子が生まれる様に栄養をつけに!と
お金をおろしてバスで行ったのを覚えています。
当時は山手に住んでいましたが今は引越して遠くなってしまいました。
是非最後に食べに行きたいと思います。
あ、子供は肉のおかげで元気に育っています(^ ^)

bowjack 10-11-06 (土) 2:12

コメント、ありがとうございます>furu_gogo
 
84才でも、その歳を感じさせないジャックは、
何時か看板を下ろす時が来ると思いながらも、
なかなかそのキッカケが無かったのだと、思っています。
 
ただ、もう一度建物を作り直した時、
店も作り直して・・・と考えるには難しい歳。
 
これは天が、「そろそろ卒業しましょう」と用意した
ジャストなタイミングのキッカケなのでしょうね。
 

Bill 10-11-29 (月) 11:33

驚きました、ジャックさん引退されてしまうんですね・・・
 
某若さんのサイトで反町の侍と並んでジャックスが紹介されていて、侍は残念ながら閉店後の訪問だったのですが、ジャックスはそれから何度となくお邪魔しました。友達と、親戚と、また一人で伺ったこともあります。
 
何度か取引先のイギリス人を連れて行ったこともあるんですが、ジャックさん、わざわざ料理がどうだったをたずねて来られるので、その姿勢に彼らも喜んでいたものです。
 
いわゆるおいしい肉を出すレストランという中ではブランド牛を使ってA5ランクの肉を出しているステーキレストラン等も他にはありますが、持って来てもらってテーブルに置かれたときの見た目の圧倒感、立ち昇る湯気に混じるバターと醤油のあの香り、ジューシーな脂の甘み、頬張ったときの肉の感触、溢れ出る肉汁、全てをとっても私の中ではこれこそが”THE STEAK” だと思っています。
 
ジャックさんのNYカット、私もあと何度伺えるかわからないですが、なるべく機会を作ってできる限り堪能したいと思います。
 
しかし、残念です。ほんとに。
 
 
できることなら厨房にいらっしゃる息子さんに後を継いでいただきたいなと、自分勝手な希望を持ってしまいます・・・

bowjack 10-11-29 (月) 11:42

ジャックの肉を扱う目と技は、
誰も真似ができないものだ・・と奥様が語っていました。
 
息子さんも、息子さんの生き方があり、
流れの中で今の状態に落ち着いているのでしょう。
 
昭和の味も味わえるウチに・・・
と思いながら、記憶を辿る道を歩くと、
既に閉店している思い出の店の多い事。
 
慌てて行かないと、間に合わない時期に達した、という事でしょうね。

みにゃー 10-12-10 (金) 20:50

最近特に「肉が喰いたい」そう思うんです。
だから行って来ます。
ガツンッとN,Y Cutサーロイン 楽しみです。

bowjack 10-12-12 (日) 9:40

是非、昭和の味わい、楽しんでください(^_^)>みにゃー
 
遠方より、このステーキを味わいに来る友人を連れて行こうと店に連絡すると
兄弟達の来店があった・・・とジャックより知らせ。
 
満足できたでしょうか?(^_^)

bowjack 10-12-19 (日) 18:08

客人を連れて行ったところ、
ジャックス始まって以来、最高のナイフ捌きだったと
ジャックがみにゃーの事を褒めていました。
  
年末もあって、週末は予約が集中しているようですが、
また行こうかな・・と思わされる味わいは健在でした。
 
あと何回、行けるんでしょうね(^_^;

MEG 11-02-21 (月) 1:43

今日(正確には昨日?)、行ってきました。
普段はお魚派の娘、N.W. Cutステーキ、美味しい美味しいって食べて、さすがにお肉を少し残しましたが、ジャックに「見てご覧、お嬢さん、きれいに食べるね〜」って喜んでくれました。
息子もお肉ばっかり食べていて、笑われてました。(^^;

本当に、とても良い時間を過ごす事ができました。(^_^)
子供達が、記憶に残るぐらいの歳で良かった。間に合った、と思っています。

それにしても、本当に、嗚呼、本当に美味しかったです。

bowjack 11-02-22 (火) 15:39

昭和の味わいを食の記憶として残せたのなら、
ジャックも本望でしょうね(^_^)>MEG
 
あと僅かで閉店。
もう一回は食べにいかないとなぁ・・・

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