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自分次第


 
 
夢を見た。
 
町中で、誰かのポートレートを撮ってる夢だった。
 
 
撮影がひとしきりあって、
モデルと別れて、飯でも食おう・・・と思ったら、
「一緒に食べたい」と言われた。
 
おいおい
君は結構な売れっ子だったんじゃなかったっけ?
 
そんな暇があるのかな??
 
と思ったのだが、
別に断る理由も無い。
 
だから「いいよ」とだけ応えて、
何の気遣いも無いまま、所謂大衆食堂に飛び込んだ。
 
 
あ・・・
そうか・・・
 
こんな店じゃまずかったかな??
 
と思ったけど、
とにかく疲れていたので、
自分が楽なパターンに徹する事にする。
 
 
「あまり気にしてなかったけどさ、
 こんな店って嫌じゃない?」
 
「そんな事ないですよぉ
 実はこういう店って嫌いじゃなくて
 でも、なかなか1人じゃ入れないじゃないですか」
 
「そうか。
 でもホント、ごめんね。
 いつもだったらもうちょっと考えるんだけど、
 腹減っててさ・・・」
 
 
ゴメン
本当にあまり君の事、気にしてなかったのさ。
 
 
目の前には、汗をかいたビール瓶が1つ。
磨りガラスのような安っぽいコップが2つ。
 
お通しよ・・・と出されたのは小さな皿に乗ったオカラ。
 
 
「何、食べたい?」
 
「ソース焼きそばか野菜炒め」
 
「どっちも瓶ビールにピッタリだね。」
 
 
店の奥は暗くてよく見えないが、
適度に客がいて、ざわつく声が少し鬱陶しい。
 
でも、明らかにチラチラと観察する目線があって、
それがまた、私を不機嫌にした。
 
 
ラーメンもカツ丼も刺身定食もある食堂には
もちろん中華系の料理も存在したが、
何故か焼きそばは上海焼きそばしかなくて
少しばかり悩む。
 
 
「ねぇ
 焼きそばは上海焼きそばしかないけどいい?」
 
「うん。
 ソース焼きそばみたいなヤツでしょ?」
 
「そうそう。」
 
「野菜炒めも捨てがたいけど・・・」
 
「じゃぁ、両方頼もう。
 あと餃子・・・とか。
 あ?匂い・・・気にする??」
 
「へ・い・き」
 
 
何だろ・・・
この感じ。
 
 
「あの・・・」
 
「うん?」
 
「隣に座ってもいいですか?」
 
「別に構わないけど、
 俺、汗だくだよ?」
 
「へ・い・き」
 
 
何なんだよ・・・
コイツ。
 
 
まぁとにかくビールだ。
何はなくとも、冷えたビールの喉ごしを味わいたいのだ。
 
 
無造作に片手でビールを注ぎ、
彼女のコップには少し注意をしながらビールを注ぎ、
軽くグラスを合わせたら、一気に飲み干す。
 
この場合は、喉をカッと開けて、
一気に流し込むような飲み方だ。
 
飲み干した後の、喉ごしだけが心地よい、
味わいなんてどうでも良い飲み方だけど、
これがまた実に気持ち良いのだ。
 
 
カンッと音を立ててコップをテーブルに置くと、
そこにまたビールを注ぐ。
 
と、そこにもう一つ、
飲み干されたグラスが置かれた。
 
 
「久々に、こんな飲み方する人を見た。」
 
「あぁ・・・
 ちょっと忙しないけどね。
 こんな日の一杯目は、コレが好きなんだ。」
 
「オヤジみたい」
 
「オヤジだよ、俺」
 
「違う。
 ウチの親父が、そういう飲み方するの」
 
「へぇ〜
 ウチには父親が居なかったから、
 そういう記憶が無いなぁ」
 
 
無愛想な店員が、
注文した料理を机に乱暴に置いた。
 
でもまぁ・・・
この店にはピッタリなサーブだと思う。
 
 
「このね・・・
 脂がべったりした感じの焼きそば、大好き。」
 
「ソースじゃないぜ?」
 
「ソースも大事だけど、
 このドロっとしてユルっとしたのも好き。」
 
「これはこれで楽しいけどな」
 
「餃子、美味!」
 
 
気付くと、回りの客の殆どが彼女の存在に気付いたようで、
私達はすっかり注目の的となっていた。
 
 
「なんか、気付かれちゃったよ? 君。」
 
「いいのいいの、いつもの事。
 それよりビールのお代わり欲しい。」
 
「そうだな。」
 
 
まぁ、くたびれたカメラマンと
仕事終わりで飯食ってる・・って図だから
単純に、興味を引いてるって事なんだろうね。
 
そして安っぽいテーブルの上には、
瓶ビールが3本と300mlの冷や酒の瓶が3本空になって立っていた。
 
 
「酔っ払っちゃったぁ・・・」
 
「俺もだぁ・・・」
 
「ねぇ〜
 もうちょっと飲もうよぉ・・・」
 
 
彼女は、私の肩に頭を乗せて呟いた。
 
彼女の髪が頬に触れ、
相当に小さい頭の重さが肩と首を刺激する。
 
 
あぁ・・・
そう言えばこういう感触って、
随分前に忘れてしまったな。
 
こういうシチュエーションって、
もう無いもの・・と思い込んでいたのかな?
 
と思った途端、目が醒めた。
 
 
 
で、しばし考え込む。
 
撮影の時に感触や、
男女の付き合いが始まりそうな感触を思い出すって、
何故なんだろう・・・と。
 
もう、自分には大した時間が無い・・・とか
もう、新しい事を始める事も無い・・・とか
色々な事を、自分から諦めていなかっただろうか・・・と。
 
そんな事を考えさせてくれるような夢を見るのは、
何かの前触れなのかも知れない、とも思いながらも、
妙に気持ちの良い感触だけが、首の付け根に残っている。
 
 
やっぱりさ
前を向いて、自分らしく生きるのが良いよね。
 
肩を落として、疲れ切った姿を無意識に晒して、
自ら可能性を狭める意味は無いよね。
 
そんな事を、今更ながらに感じる為に、
こんな夢を見たのかも、知れないね(^_^)
 

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