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視点を変えると

「F3ハーフとマイスターです」

「ゴメン、カウンターのソッチで叫ぶだけじゃわかんない。
 この状況見て、伝票整理してよ。」

「はい、すみません」

「あっちでオーダー取るばっかりで、
 せっかく注いだビールを取りに来ない連中、動かしてよ」

「はい、すみません」

 

とある、ビール会社が経営している店に入っていた。

もの凄く暑くて、誰もが冷房の効いた部屋でビールでも・・・と思うのだろう。
店は、想像以上に混んでいて、空いているカウンターに通されるまでに、
20分以上かかっていた。

カウンターの奥では、店長という名札とソムリエバッジをつけた男性が、
6つのビールサーバーを操り、ワインセラーからはワインを選んでカラフェに注いで、
紙パックのウーロン茶とオレンジジュースをグラスに注ぎながら、
さらに洗い場に走ってグラスを洗い・・・

要するに、1人でドリンク全てを作っていたのだが、
どう見ても店内には100人程度の客がいて、
そのオーダーがどんどん入ってきてしまっているようだ。

もう、無理・・・
という表情とオーラを感じて、とにかく頭を下げ笑顔を作っていた男性は、
胸に副店長という名札をつけていたが、とにかく彼もレジと客誘導をこなしつつ、
さらに若いスタッフに指示を出す・・という仕事をしている。

 

「もうさぁ、
 そこで叫ぶ前に、ここに入って少しは手伝ってくれって感じだよ。
 もう、無理・・・」

「はい、すみません」

 

カウンターに座ってると、こういうやり取りが直に聞こえてしまう。

いつもなら、店長の嘆きにも似た怒りの声に、こっちも不快になるのだが、
明らかに可哀想な状況が見える事と、神業のようにドリンクを作っていく職人芸に、
実は内心感心さえしていたのだ。

 

「A6あがったよ〜取りに来て!
 で、こいつがC2・・・あれ?」

「え・・と、違いますねぇ
 あ、D1です、こっちの分ですね」

「頼むから、伝票整理してくれよ。」

「店長、私入ります」

 

胸にマークの入ったベストを着た女性が、
カウンターの中に入った。

そのビールの注ぎ方はキリッとしていて、頼もしい。
店長にもちょっとだけ安堵の色が顔に浮かぶ。

最近感じるのは、若い女性がしっかりしている事。

同年代の男性に比べて遙かに能力が高く、
良くも悪くも大人である・・と感じる事が多い。

 

「おまたせしました、ブラウマイスターです」

「大変だねぇ」

「申し訳ありません、ドタバタして」

 

ビールをサーブしてくれたのは、副店長だ。

 

「今日は正規のスタッフじゃなくて、慣れておりませんで、
 ご迷惑おかけしました。」

「いやいや、神業を見せていただいて、
 感心しましたよ」

 

ほんの一杯のビールを飲むために寄った店で、
今時珍しい心遣いと、職人ワザを目の当たりにする。

コストの為にスタッフが少ないのか・・と思ったが、
夏休とかの関係とか諸々あってのドタバタであった事もわかり、
働く人の気持ちを先に想像してしまう自分は、
以前よりは他人にも優しくなれているのかな・・・と、思ったりもする。

 

見ず知らずの他人に冷たい今の都会、
自分の辛さをアピールするより、
苦しんでいるかも知れない・・と想像できる自分でありたい、と、
なんとなく思った。

 

それにしても、
クソ暑い日には、生ビールが美味すぎる(^_^;)

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