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2015-05-06

予感

6793Dcm
 
 
その日は何故か、
何をしていても独りよがりな気持ちに
支配されていた。
  
そういう事ってたまにあるので
あまり気にはしないのだけど、
無力感と倦怠感も伴うのでつい下を向いてしまう。
 
そうか
春っぽい気候や様々な花粉の匂い、
新緑の色や若さが持つ輝きなど、が街に溢れているからね。
 
嫌でも上ずる気分に
ついていけない苛立ちなのかもね。
 
見えてしまっているゴールには理不尽な色がついているし、
日々、利用される事が多すぎで疲れているから、
モチベーションは下がりっぱなし。
 
でも、自分が信じる道を行く事だけが、
自分の心を救う事になるのは、わかっていること。
 
楽しみを感じる事が無さ過ぎでも、
誰かの役に立っている事が実感できていれば、
そんなもんさ・・・と笑う事ができるってものだ。
 
ただそれでも
その日は生きている事が辛い、という気持ちに捕らわれていた。
  
 
「危ねぇな!」
 
  
と独り言が出た。
 
横断歩道を渡りだした時に
強引に右折して目の前をかすめるタクシーがいた。
 
確かに光の加減で見えにくいだろうけど、
背中には派手な反射板が付いたジャンパーを着ているから、
タクシーから私は確実に見えたはずだ。
 
見えていて、いけると踏んで強引に横断歩道を過ぎった事は
運転手と目が合った時にすぐわかった。
 
落ち込む気分は美味い酒でも飲んで忘れてしまおう、
と酒場に向かう道。
それも店の前の横断歩道での出来事だ。
 
 
0137D
 
 
朝、玄関でグローブを見て、考えていた。
 
今日はそこそこ気温が上がるから、
グローブをやめようか?
 
いや、何かで転倒した時に直接手をつくのは嫌だから、
薄手のグローブをする事にしようか?
 
メカニック用のグリップしやすい布製グローブを数種、
革製のグローブは防寒用からライディング用は多種、
布と革のコンビでプロテクターが付いてるものも少し・・
 
そんなグローブ入れの中で、ゴツイ感じがするからあまりしない
プロテクター付きの物に目が止まる。
 
たまには、コレしていくかな・・とそれを持ち
通勤途中でそのゴツさにちょっと恥ずかしい気持ちになりながら、
気分だけは変わるかなと良い方に捉えて出社した。
 
そんなグローブをしていたから、
そのタクシーに一発パンチでも入れてやれば良かったと思いつつ
(そんな事はしないけどね)
そのまま横断歩道を渡っていく
 

音も無くライトが近づいた。
 
あ?
車か??
 
あ??
止まれよ!
 
おい!!!
 
 
車は私の杖をバンパーで押し切り
私はそのままその場に転倒した。
 
受け身を自然に取るが、
肘を道路にぶつけてしまう。
 
だけど、横断歩道の真ん中にいた私をそのままはねた車だから、
そこで止まらない可能性の方が高い。
 
 
6387Dcm
 
 
「どこが痛いですか?」
 
「肘打ったので今痺れてて握力が出ないだけですよ」
 
「ちょっと見ますね。
 あ、ちょっとだけ赤くなってるだけですね。」
 
「擦過傷無いですか?」
 
「無いですよ。」
 
「良かった。」
 
「他に痛いところは無いですか?」
 
「大丈夫ですよ。
 極端な話、道に転がっただけで済んだから。」
 
 
救急車の中で、
メディカルチェックを受けていた。
 
右手に力が入らないけど、事故によるショックが出ているだけだから、
30分もすれば元に戻る事はわかっている。
 
とりあえず知らせたい人にメールをしようとするが、
左手ではメールをするのも大変で、右手の握力が戻るのを待つ事にした。
 
 
警察が来て、現場検証を始める。
 
細かい説明を被害者として説明していて、
どう考えても掌も突いたりぶつけたりしている事に気づくが
プロテクター付きのグローブのおかげで、無傷だった事がわかった。
 
あ・・・
これだわ。
 
朝、どうしてもこのグローブをしなくちゃ・・
と思ったのは。
 
 
6395Dcm
 
 
なんとなく嫌な感じがする、とか、
今日はあっち方向へ行くのをやめよう、とか、
そういう予感を感じた時には、その予感に従うのがクセになっている。

長年、ライダーとして走ってきた人達には解りやすい事だけど、
そういう予感ってかなりの確率で当たる事が多く、
当たった時でも予感があったからどうにかギリギリで対処できたって事、
私の場合はありすぎるほどあるのだ。
 
今は殆ど車両に乗らない日々なので、
ヤバイ事に巻き込まれる確率は凄く下がっていると思っているけど、
この日は、そんな予感が無意識にさせたグローブのおかげで、
上手く転がって頭も打たずにピンピンしたまま事故をやり過ごす事ができている。
 
 
しかし
生きているのが辛いなぁ・・と歩いている時、
じゃぁ、死んでみる?って状況に追い込まれるって
どうなんだろう?
 
日々、悔い無く生きているつもりだし、
やりたい事は一通り経験して、
もうお腹いっぱい・・な感覚もあった。
 
だけで路上に転がった時、
死ぬ前にやっておきたい事がある、という事に気づく。
 
求めていても手に入らないモノは諦めるられるけど、
諦められないこともあるんだって、気づく。
 
だから、それは
素直にもう一度求めてみようと思いつつも、
今更ながらに、生きている事を実感した。
 
 
もうね
自分の役目は終わったと
思っていたんだ。
 
後は、どうやって自分を仕舞っていくのかが、
最後の仕事だと思っていたんだ。
 
いつの間にか必要が無くなるように仕込み、
いつの間にか存在が消えていくよう、姿を消していく。
 
そして、そこにある事しかわからない空気のように、
世の中に溶け込んで、最後は行方もわからないように・・と。
 
でもまだ、悔いがある。

それなら、
役目もあるのだろう。
 
例えばこうやって、独り言のように表現する事も、
ひょっとしたら何かの役に立っているかも、と、
思う事にした。
 
 
しかし・・
この年で車にはねられるとは、思わなかったよ(爆)

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