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クロッシング

深夜、映画のランキングを語る番組にて
辛口の映画関係者がそろってトップにあげたのが「クロッシング」だった。
 

 
物語は、北朝鮮で貧しくも幸せに生きる家族の話。
慎ましく暮らす親子3人は、母の結核で壊れていく。
 
元サッカー選手の父は妻の為に薬を求めて脱北するが、
薬を得る為に働いている時中国政府に追われ、
大使館への駆け込みなどを経て韓国で生活をする事になる。
しかし、母は死に、息子は父と会いたい一心で脱北を図るが・・・
 
と、報道で見聞きする現実に重なるようなストーリーではあるが、
政治色はできるだけ排して現実に近づけた・・という触れ込みに惹かれ、
重さを覚悟して、観に行ってきた。
 
 

 
 
この映画は、単館上映物だ。
 
明らかに興行としての能力には欠けるし、
観ても気持ち良いワケは・・・無い。
 
ただ、映像を作る仕事をする人間としては、
完成した2008年から随分時間を費やしての上映に、
タダモノならぬ気配を感じていた。
 
そして向かった映画館が「ジャック・アンド・ベティ」だった。
 
 
 
映画が好きで、良質な映画を上映したい・・・
と頑張っていた福寿祁久雄氏が経営していた映画館の1つ「ジャック・アンド・ベティ」は、
1度は閉館となってしまったが黄金町プロジェクト等の関連から復活し、
今は2本立て興行と単館系映画を上映する2スクリーン映画館として営業している。
 
仕事の関係で福寿氏に会った事もあった私でも、
「ジャック・アンド・ベティ」で映画を観た事は無くて、
そういう意味でも、ここに来る意味は何かあるんだろうな・・・とは思っていたが、
実際に映画が始まった途端、既に朧気ながらにも、その意味が伝わってきた。
 
 

 
 
正直に言って、重い。
 
海を挟んだ隣の国で起きている現実を、
ノンフィクションドラマの様に作り上げたこの映画は、
心のどこかに引っかかっていた感情と途切れ途切れの記憶によって、
今の自分を、違う視点で見るように仕向けられている。
 
 
助監督は脱北者。
実際に脱北した人達100名へのインタビューを元に作られた本。
プロパガンダにしない。
実際に脱北した人が通った道を追う作り。
北朝鮮の訛りを使う役者。
北朝鮮との関係が深い中国ロケでは、許可さえ取れずにゲリラ撮影。
 
様々な情報は、それだけを見ればなるほど・・と思わせてはくれるけど、
そんな物はこの映画、と言うか制作チームの凄さを表していない。
 
私が観て驚いたのは、
一貫してリアリティが存在する事だった。
 
 

 
 
私は、クリエイティブな物において、
質や格、魅力を決める物は
嘘をどれだけ本物に見せるか・・・だと思っている。
 
ストーリーを紡ぐ作業は、全て本物として表現できなけば、
面白くもなんともないだけじゃなく、見続ける事さえ難しくなる。
 
写真だって、レンズよって歪められ切り取られた世界を
伝えたいメッセージの代弁者としてリアルに表現しないと、
その場にある空気は伝わらない、と思っている。
 
そしてそのリアリティは、
緻密な計算とブレない視点が求められる
大変な作業を伴う特殊技術である事は、言うまでもない。
 
 

 
 
幸せって何だろうね
日々、暮らせる事を感謝しなくちゃね
 
そして
幸せはどこにでもあるんだから
気がつかないとね
 
 
そんな当たり前な事さえ忘れる日常は、
知らず知らずのうちに、自ら呼び寄せた不幸なのかも知れない。
 
そんな思いを抱かせるこの映画、
自分の立ち位置を見失った人にはオススメです。
 
 

 
映画「クロッシング」オフィシャルサイト 
 http://www.crossing-movie.jp/index.html

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