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煮干しのみそ汁

何故か母親は、料理が恐ろしく下手だった。
 
ご飯は蒸して食べる物、と思っていたし、
煮魚は崩れる直前まで煮込む物であったし、
焼き魚はどっちかと言うと炭に近いほど焼く物であり、
ちゃんこ鍋と称して何時でもあり合わせの野菜等を入れた煮物?
のような料理を好み・・・と言うか、料理の殆どは煮すぎた何か、
である事が多かった。
 
よくわからない鍋物、キャベツロール、おでん、煮魚、
ボルシチという名のトマト入り鍋物、たまにカレー・・・
と、思い出すと煮込む物ばかり。
 
で、随分経ってから母親に何故だ?と尋ねたところ、
火を使うのが恐かった(苦手だった?)と答えた。
 
要するに、何かを焼くと焦がしてしまうから、
失敗の無い煮物に徹していたのだろう・・と今になって思う。
 
ただ、その様々な煮料理が美味しければ
問題は大きくなかったと思う。
 
と言うのは、とにかく調味料を「もったいない」という一言で
ほとんど使わない料理だったため、
基本的に味が無い・・か、ただ単に塩辛いだけ?・・・に近い味付けだったのだ。
 
  
 
「お母さん・・・もうちょっと醤油入れようよ?」
 
「もったいない」
 
「お砂糖入れようよ?」
 
「歯が溶けるからダメ。」
 
「みりんあったよね?」
 
「もったいないから、ダメ」
 
  
 
小学校3年になった頃、あまりに不味いため自分で作ろうと試みたが、
何故か母親は料理をする事は好きらしく、シェフの座を譲ってはくれなかった。
 
  
 
「アンタは後片づけをすればいいのよ。
 食べたら早くお茶碗洗って!」
 
「僕だって、料理ぐらいできるよ。
 学校でも教えてもらったし・・・」
 
「教科書通りに作ったら、無駄だらけよ」
 
  
 
学校の教科書も、新聞の料理欄の記事の切り抜きも、
こういうのをたまには作ろうと提案するために用意して提供するが、
調味料の量は良くて半分、酷いと使わないスタイルは崩さないし、
かつお節でダシを取る・・という行為も「無駄が多い」と聞き入れられず、
結局、ひたすら素材の味しかしない老人食か病院食のような料理が続いた。
 
  
 
「あなたは、どうして魚嫌いなの?」
 
「不味い魚料理ばかり食べて育ったからだよ」
 
「それは、美味しい料理を食べてないからよ」
 
「そんな事は無いよ。
 ちゃんとした所の煮魚も焼き魚も美味しいと思うけど、
 自分の中で、美味しくない物ってすり込みができちゃってるんだよ」
 
「そんな事無い」
 
「あるんだよ。」
 
  
 
当時(今も?)高級食材の扱いを受けていた刺身や肉類は、
当然の如く食卓には上らない。
 
外食なんて年に一回あれば良いような物だし、
出前を取るなんて事も客が来て、どうしようもない時だけの事で、
町の蕎麦屋で食事をする事も、寿司屋の出前を取る事も、見果てぬ夢・・・
という感じがあったのは、どうやら私だけの感覚ではない。
 
高度成長期に突入した昭和30〜40年代は、
外食も会社の金でする(社用族と称された)一部の人達を除いて、
贅沢以外の何物でもない時代だったと言っていいだろう。
 
  
 
「美味しいと思うのになぁ・・・煮魚」
 
「どうぞ、召し上がれ。
 煮魚の味はまだ良いだけど、それより嫌いなのは食感なんだよ。
 あの、モロっとした歯応えと、食べにくさと・・・」
 
「ほんと、魚食べるの下手よねぇ・・・」
 
「良いジャン、美味しいと思える部分を食べるだけで。
 煮魚よりは焼き魚の方がまだ良いけど、
 食材を煮込んだ匂いも好きじゃないから・・・」
 
「はいはい。
 美味しいのになぁ・・・」
 
  
 
そして生まれて50年が過ぎた今も、私の「煮物嫌い」は治っていない(^_^;)
 
その当時、食べる事のできなかった物が、好物の殆どを占め、
メタボだ・・・と言われても、肉食なスタイルは崩せない。
 
  
 
「なんかさ・・・
 ここのみそ汁って、懐かしくも美味しいんだけど、
 なんかダシとかに秘密があるの?」
 
「え? あぁ・・・
 ウチのみそ汁は、煮干しでダシを取っているんですよ。
 それが、懐かしい感じ?になるんだと思います。」
 
  
 
ふらっと、友人と入った料理屋で飲んだみそ汁が妙に美味しくて、
スタッフに尋ねたところ、そんな答えが返ってきた。
 
え? 煮干し??
 
と思えば、昔も今も母親が作るみそ汁は、安い煮干しでダシを取って作る物で、
もったいないから(面倒だから?)煮干しはそのままも、ちょっと魚臭い物なのだ。
 
食べ物の感じ方は、育った時の記憶によって左右させられる。
 
美味しい物を知らなかったから、何でも美味しく頂けるようになったが、
子供の頃、毎日食べていた味だけは、「美味しくない物」として刷り込まれ、
今の食生活に大きく影響を与えている・・・・・のに、
どうしてみそ汁だけは、煮干しのダシでも美味しいって思うのだろう。
 
そんな事を思わされるほど、育ててくれた人の影響は、大きいのだろうか。
 
  
 
「あなたは、煮干しも嫌いなんじゃないの?」
 
「え?」
 
「ラーメンとかで煮干し使ってると、不味いって怒るじゃん」
 
「あ・・・・そうだねぇ。
 何故だろうねぇ・・・」
 
「煮干しダシのみそ汁だけは美味しいって記憶があるからじゃない?」
 
「そんな事はない・・・はず。
 たっぷりお椀に残る煮干しを食べるのが嫌でさぁ・・・」
 
「煮干しを食べる事が嫌いであって、味だけは美味しい物って
 記憶されたんだと思いますよ?煮干しも煮魚だし(爆)」
  
 
  
 
たった1人で育ててくれた母親には、感謝している。
 
例え偏った嗜好が育ったとしても、
例え煮物全般が苦手になったとしても、
例え魚嫌いになったとしても、
私は幸せに50年間を生き抜いてこられた・・・
と信じている。

コメント:2

愛知のK 08-04-16 (水) 9:54

煮干の味噌汁。
私の子供の頃もやはり煮干でとった出汁でした。
あの独特の匂いが嫌いでしたが、ある時行きつけの
欧風家庭料理のお店で出されている味噌汁の出汁が
煮干だと聞いてビックリ!
いつもおいしい、と思っていただいていたから。
それからは、お味噌汁の出汁は煮干でとるようになりました^^

bowjack 08-04-16 (水) 22:55

昭和30年代の家庭では、
みそ汁のダシは煮干しが多かったと、思います。

ただ、がさつにダシを取っていたから美味しくなかったのであって、
ちゃんと取れば美味しい物のようです・・・し、
その頃の煮干しは、質も良かったのかも知れません。

いずれにしろ、小さい頃慣れ親しんだ味という物は、
しっかりと身体に染みついているもののようです。

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