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Kさんへ

「深夜0時45分着
 早川漁港で待ち合わせでお願いします。」
 
「え〜っと
 それって東海道の最終でって事ですよね?
 
「はい。
 船はその日の状況で早ければ1時半、遅くとも3時位までには出ますから
 最終で来てもらって待って頂きます。」
 
 
ふ〜っとため息をついてしまう。
 
それが定置網漁の取材打合せで
一番疲れる部分だった。
 
その時応対してくれた担当者は
人の良い顔が滲むような笑顔の中に
ちょっと凄みのある視線を絡めていたように感じた。
 
 
 
「おはようございます。」
 
「お待ちしてました。」
 
 
深夜の早川漁港で再会した彼は
正直言って恐かった。
 
そりゃそうだ。
180センチ以上ありそうに見える巨漢。
 
しかもガッシリと太い体躯は、
体力自慢の漁師達よりも一回り大きく
その眼差しには力強い光が灯っているのだ。
 
勿論、話を始めればあの優しい口調になるのだが、
漁港であり彼の戦場でもあるこの場では
その纏う空気が全く違う。
 
そして私達は、1時間も待たずに
漆黒の凪いだ海に浮かんでいた。
 
 
「漁の取材が終わったら
 今日上がったマサバをもらってくるので
 刺身作りますから一緒に食べませんか?」
 
「え?ホント?
 サバの刺身なんて滅多に食えないですよ。
 嬉しいな」
 
 
根っからの食いしん坊な自分は
その頃やっと流通しだした関サバの刺身を
思い出していた。
 
サバは足が速いから生では食べられないという常識が
漁法の進化と流通の進歩で覆されつつあった時代の話で、
それでもまだ「松輪のサバ」や「関サバ」などの高級な物くらいしか
刺身で出会える事がなかったから
今朝とれたマサバの刺身が食べられなら食べてみたいと思ったワケで。
 
そして定置網漁の取材が終わった後、
彼の実家が営んでいる店(和食系飲み屋?)に
図々しくもお邪魔したのは言うまでも無い。
 
 
「こうやって多くの方に取材して頂くんですけど
 同じ様にお誘いしてもつきあってくれたのは初めてですよ」
 
「え? そうなんですか?
 信じられないなぁ〜」
 
 
取材は、どれだけ対象者に対して近づけるかで質が変わるから
私はなるべく早く、失礼と思いつつも感情に立ち入る無礼を伴いつつ
その懐に飛び込むように努めてきた。
 
誘いがあったら、スタッフを返してでもおつき合いする。
(勿論時間が無い場合は諦めるけど)

その自分流に従っただけなのだけど、
過去、徹夜で取材した人達はヘロヘロだったのだろうと、
勝手に想像してみたりした。
 
そして・・・
 
彼は店の調理場で、
プロの物としか見えない刺身盛り合わせを手早く作り、
飲めるなら飲んでね・・と酒まで用意してくれたのだが・・・
 
その店には、普通この手の店には存在しない物が
2つある事に気がついた。
 
一つは魚に対する説明書きで
刺身を食べるタイミングの事に使われていた言葉「死後硬直」(爆)
 
そしてもう一つはウィスキーの瓶だが、そのブランドは「ベンネヴィス」だった。
 
 
「死後硬直」という言葉は、彼が研究職である事から出た
真面目な解説故の言葉だと想像するけど、飲食店に「死後硬直」って・・
と思いつつも、これをキッカケに面白い話をしようという仕掛けかな、と
勝手に想像した。
 
だけど、「ベンネヴィス」だけは不思議過ぎる。
何故ならこのブランド、相当なスコッチ好きじゃないと選ばない酒で、
モルト好きと言う人でさえ敢えてこれを選ぶ人は、ちょっといないように思うほど
マイナーなブランドであったからだ。
 
 
「あの・・・ベンネヴィス?」
 
「あ、気付きました? スコッチ好きなんですよ。
 サンプルとかを含めてもウチには2000本以上ストックがありますよ」
 
 
はい、見つけました、モルト馬鹿。
明らかに私と同類です(爆)
 
以来、酒飲み友達になったのは、言うまでも無い。
 
ただ彼は、他人の世話をする事の忙しさと、
好奇心と真面目さのかけ算で仕事の幅を広げ過ぎる事と
それに対してキッチリ進めていく実行力の凄さ故の時間の無さ、
そして黙っていると恐怖を覚えさせるほどの容姿が
きっと伴侶との出会いの幅を狭めていたのだろう。
  
会話になれば、その人なつっこさと聡明さが混じる言葉や
優しさが滲む笑顔の魅力が発揮される人なのに
何故か今日まで伴侶を迎える事がなかったようだ。
 
そして今日、その彼の披露宴に、
職場以外の友達としても異色な存在として出席させて頂いた。
 
 

0106DFP

 
 
良かったね
この素敵な人と出会うために
君は今まで1人で突っ走ってきたんだね。
 
おめでとう
今度は3人で飲みに行こうね(^_^)

コメント:3

愛知のK 13-06-16 (日) 14:12

読み終えた後、胸の奥がじわっと熱くなる様な、そしてとても幸せな気持ちになりました。

これからのお二人の人生はきっと素敵でしょうね☆
お幸せに・・・

bowjack 13-06-16 (日) 19:05

若い嫁をもらう事になりました・・とのメールを頂き、
自分の事のように喜んだのは先日の事。
 
そして、本業以外に客員准教授も務める彼は忙しさの中で
和洋中の料理を全部プロデュースし、
恩師、上司から友人までをもてなしたワケですが、
祝辞の中から出てくるのは「よくぞここまでの気配り」という言葉でした。
 
久々に、そんな彼の笑顔を見て
自分の事のように嬉しくなりましたが、
そう言えばそんな風に幸せな気分にさせらるカップルって
最近見てないな・・とも。
 
さて、何時彼らと飲めるのでしょう。
お互いかなり忙しい・・ですからねぇ(爆)

Cheyenne 17-01-17 (火) 3:51

You can always tell an expert! Thanks for cotbgituninr.

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